メメントを見たよ
もし何か一つ記憶を完全に消せるなら、私は恥ずかしい過去のことを忘れたいんですけど日々忘れたいと思い過ぎて今パッと浮かんでこないという大失態を晒しています。肝心な時に使えない、欲しい時に見つからない、テレビのリモコン、古い愛車、それと記憶。コラムとしてどうなの?
眠れない夜とかお酒飲んでダウナーになった時とかに唐突に襲いかかってくる自責の念のフラッシュバック。ほんと、お酒の過ちとか忘れたくて仕方ないんですけど、最近はお酒飲むとその瞬間から記憶がなくなるんで便利です。そろそろ病院行こう?
消せない過去と、逃げるとこすら許さない記憶。
忘れたくても忘れられない、思い出したくても思い出せない。時を経るごとに色褪せて、振り返るほどに塗り替えられていく。確かなものは何もなく、自分への慰めでしかないそれを、だけど後生大事にこれだけを頼りにと縋って行くしかなく。それはさながら暗闇の道を持ち手のないランタン一つで行く道程のようで、素手で持つ炎は身を焦がすけれど、それを捨ててしまえば暗黒に飲まれるのを待つしかない。微かな光だけを標に歩くしかなく、歩くことによって生かされているのもまた事実と。
〜あらすじ〜
妻を事件で亡くした主人公。彼もまたその事件の後遺症で記憶障害に。断片的な情報と体に刻まれた刺青を頼りに、記憶できない10分を繰り返しながら彼は妻を殺した犯人を捜す。
頭を使う映画でした。ラスト見終わって頭の中で時系列組み立てて「お〜」となる。悲しい記憶の話。どんでん返しとかでなく、全てを見通したその先に大切なものがあると思った。
記憶が確かなものと、誰が決めた?
ならば、記録なら正しいか?
答えは両方ノーである。
記録の捏造なんて簡単で、例えば中身の見えないジャムの瓶のラベルを張り替える様に、「その物自体」が正しいとしても「それを読み解くヒント」=ラベルが違えば人は誤認する。ましてや存在が曖昧でラベルさえ存在しない記憶なんて、誰にも、それこそ自分すら正しいとは証明できない。
じゃあ記憶はなんのためにあるのか。
それは、自分を慰めるためのものでしかない。思い出は、本質的に悲しいものなんだよ。
縋るように、懐かしむように、噛みしめるように、頼るように、過ちを繰り返さないように、強くなるために、記憶は大切にされ、もてはやされ、捏造される。今あなたの持っている思い出が、果たして本当に寸分の狂いもなく当時を再現してると、果たして誰が証明できますか?
だから、大事なのは正当性でなく、本人に優しいかどうかなんだと思う。
それが、誰かにとっては優しくなかったとしても。
こっから演出的な話
「インスリンの注射」と「刺青の針」、主人公が習慣なら覚えられるという台詞と重ねると少し意味深になるのかなぁと思った。可哀想なサミーはいなかった。
文責:日笠
(優しくしてくれる記憶に心当たりがないんですがそれは)